真冬に行けば鬱度もアップ!福井県を代表する鬱観光名所「東尋坊」とレトロ展望台「東尋坊タワー」

福井県

大雪の中北陸自動車道で金沢から福井県に抜けてきた。目的地は福井随一の観光地として名高いあの「東尋坊」である。日本海に面する断崖絶壁の景勝。説明しなくとも有名過ぎるので言うまでもない場所だが、東尋坊とは崖から突き落とされた悪僧の名前である。

その名がついた崖から突き落とされた悪僧の怨念か、自ら死を選ぶ人々を誘いこみ崖の下へ葬り去るという土地の因縁がそもそも観光資源になっているのか定かではないが、リア充全開な観光客がスリルを求めて断崖絶壁の上(=生者の世界)から海(=死者の世界)を見下ろすものの、すぐに安全な場所に逃げて「やっぱり生きててよかった」と安穏としながら記念撮影を済ませてカニや海産物を食って帰るという、生と死の落差を噛み締める場所なのである。

この日福井県では記録的なドカ雪で特急サンダーバード号も国道8号を走る車も立ち往生するわ、とんでもない悪天候にぶち当たった訳だが、普段から風が強く雪が舞う事はあっても滅多に積もる所までは行かないという東尋坊にも容赦なく雪が積もっていた。

福井県と言えば東尋坊と言う程観光地としては有名な場所なので、こんな酷い天気にも関わらず観光バスがちらほら止まっていたり、土産物屋はまるでやる気がないのに観光客の姿だけはしっかりある。

他の土産物屋はこの悪天候で死んだように眠りこけているが越前ガニ料理の「やまに水産」だけは平常運転で商売しておりました。通り過ぎる観光客も気にして店内をチラ見する訳だが越前ガニは高級品なので値札の値段を見てみんな素通りするという状態。

普段はベタな土産物横丁な訳で越前ガニ屋以外も海産物を串焼きにして出したりするいかにもな店がズラーッと並んでいるのだが、殆どの土産物屋はシャッターを閉めている。かなり鬱な感じだ。

土産物横丁を抜けると視界が開けて日本海の絶景が…と思ったけどこの大雪では真っ白なだけで何が何だか意味不明です。

観光客が立ち止まって記念撮影するお決まりのスポットまでやってきた。おまけに地面は中途半端に溶けた雪で水浸しである。景色を楽しむ余裕などあるはずもなく観光客は皆渋い表情だ。

だが我々取材班はただ東尋坊に観光に訪れた訳ではない。この有名な景勝地が「自殺の名所」として富士の樹海と並んで二大巨頭となっている事はよく知られている。

東尋坊の崖は火山岩で出来た「輝石安山岩の柱状節理」とかいうもので、地質的に貴重なものらしく国の天然記念物に指定されているのだ。

断崖絶壁にスリルを求めてはしゃぎ回るリア充な観光客に混じって、この場所から身を投げて自らの命を捨てていく人々は後を絶たない。

日本は先進国の中でも極めて自殺率の高い精神的貧困国である。年間3万人が自ら死を選ぶという社会の闇はあまり真剣に語られる事もない。この東尋坊では少なくとも年間30人以上が転落死しており、リーマンショック以降の不況で「派遣切り」に遭った人々やその後の東日本大震災による影響で全国的にも自殺志願者は右肩上がりだ。

リア充な観光客が押し寄せる風景と隣り合う自殺志願者の存在、これほど光と闇が寄り添った観光地も珍しいっちゃ珍しいが、東尋坊を観光資源にして食ってる地元の人々からすれば迷惑千万だ(中には自殺の名所という事自体を観光資源に捉えている人もいるらしいが)。関係者はみすみす人を死なせる訳にはいかないと色々手立てをしている。

恐らく夏場しか開けていないのかして営業していない土産物屋のガラス扉越しに「救いの電話」の案内が掲げられていた。

救いの電話…それは東尋坊に飛び込み自殺に来た人間に向けた最後の命綱、そして心の防波堤。

さすがの観光地東尋坊でも、お馴染みの記念撮影スポットを外れると人っ子ひとり居ない寂寥感全開の空間が広がる。折りしもの大雪も相まって生きた心地がしない。ここは涅槃か。

土産物屋からかなり離れた崖沿いの松林…まさに死を選んだ人間が最後の覚悟を決めるかどうかの瀬戸際と言えるような場所に、その公衆電話ボックスはひそかに立ち続けている。

この「救いの電話1番」は約30年前の1980年からこの土地に置かれるようになった。電話ボックスとしては赤字物件だがNTT側が人道的な配慮でずっと設置し続けている。この場所で命を捨てようとする人間と、それを食い止めようとする人間がいる。

「命を大切に!」と書かれた電話ボックスに突きつけられる現実。そこには地元の坂井西警察署の電話番号が記されている。実際にこの救いの電話を通じて年間100人程度の人間が保護されている。

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