ここには2本のメイン通路の他に、南側中央部分に少しだけ開けた広場のようなスペースがある。広場になったスペースに入ると、その正面には赤い街灯が目立つオンボロ家屋と壱弐参横丁の案内図、そしてこの場所の住所である「青葉区一番町二丁目3」の住居表示板が貼られているのが目に付く。
真新しい案内図の看板を見ると、闇市上がりの市場であるという薄暗さも吹っ飛ぶような感覚さえ覚える。100店舗以上がひしめく横丁ではあるが、こう見えても殆ど空き店舗がないという所はなかなか凄い。
オンボロ家屋の玄関口には年季の入った市場の組合の看板が掲げられていた。
「仙台睦商業協同組合 施設 中央市場 東一市場」
見ての通り市場の組合事務所になっているようだ。中央市場とはここ壱弐参横丁の事だが、東一市場というのは少し北に離れた一番町四丁目にある、やはり同様に闇市上がりの横丁となっている場所だ。
その事務所の玄関口横手には恐ろしくレトロな美容室が現役で店を続けている。たまたま連休中で営業していなかったが、表にはその旨を示す張り紙がある。
店の玄関上には「ビューティサロン中央」とある。店の建物は事務所棟と一体になっているようだ。中央市場の成り立ち同様、かなり店の作りが古い。
ビューティサロン中央の脇からバラック市場の裏側に入る路地が隠れている。かなりそそられる空間だ。
その奥をこっそり覗くと、商店主が駐輪場にしているのか、数台の自転車が止められていた。表側の小奇麗なメインストリートとは違ってこの場所は恐らく半世紀以上なにも変わっていないものであろうと思われる。
続いて事務所入口を挟んで反対側を見ると、同じようにオンボロバラック建築に大きな屋根が取り付いてその下には何やら井戸のような構造物があるのが見える。
恐らく井戸の残骸のように見受けられるがどう見ても使っている形跡がない。コンクリートの黒ずみ具合からこの構造物もかなり古い事が伺える。
その左側の扉にはびっしりと世界の紙幣が貼られまくっている。無類の海外旅行好きがいるのだろうか。ドルやユーロならともかく確かにマイナーな国の余った紙幣って日本に持ち帰ると使い道に困る訳だが。
井戸のようなものの真上には裸電球と老人用カートの骨組みだけになった残骸が見られる。
こうして建物を見ていても明らかに老朽化が酷いが、実際にこの壱弐参横丁が再開発の手に掛からず何年持ちこたえられるかは分からない。それが分かるからこそ、消えゆく風景というものに強い哀愁を感じるのが人の感情というものかも知れないが。