信州最強の歓楽温泉地として名高い、長野県千曲市「戸倉上山田温泉」の盛り場の一角に、なんとも奇妙なホテルが存在していた。
「メモリーインSAKAE」という名前のホテルだ。周囲の雰囲気とピッタリの、なんとも場末感全開の外観が素晴らしい。場所柄、近所のタイスナックや韓国スナックから「お持ち帰り」されたホステスと客のオッサンがしけこむ目的で使われているものと見られるが、しかし、このホテルが普通のラブホテルという訳ではないのだ。
ガレージの中に奥まった玄関先に入り込むと何やら怪しげな看板が。初めて見た者は首をかしげる事であろう。看板には「宗教法人 宇宙真理学会」と書かれている。ラブホテルなのに宗教法人?なんだこりゃ?と思う訳であるが、さらに隣の看板には「喜捨をお願いします」とまで書かれている。
これが実は笑えるカラクリで、この宗教法人宇宙真理学会という団体は宗教法人という名目でラブホテルを運営しているというのだ。ホテルは宗教施設で、我々客人は部屋代を「お布施」の名目で支払う事になる。
長野市権堂の某ホテルも宇宙真理学会の運営
宇宙真理学会が運営するホテルは長野をはじめ岐阜・群馬・新潟・静岡など他県にも及び(確認されているだけでも23軒)、2009年にはホテル経営で7年間で約14億円もの所得隠しを行ったとして関東信越国税局から指摘を受け、追徴課税を食らっている。
これはもう入るしかないだろうと思いチェックイン。一通り受付で手続きを済ませる訳だが、昔のスタイルのフツーのラブホというだけで、別にお布施がどうこう言われたり、お祈りして欲しいだの勧誘されるなどといった事は一切ない。
普通の温泉旅館の一室といった間取りのかなり広い部屋に通されるが、外壁の怪しい市松模様などを見ると、やっぱりそういうホテルなのね、と実感する。これで宿泊料金4500円ポッキリというのが凄い。安すぎるぞ。
で、部屋の中にも宇宙真理学会による「喜捨をお願いします」の張り紙がばっちり貼られている。「世界の恵まれない子供たちに手を差し伸べ、少しでも多くの幼い命を救うために。」と場所柄も含めて浮きまくりの台詞が書かれていて笑ってしまった。
客室とは別にベッドが置かれている。かなり広い部屋だとお分かり頂けるだろう。ここで毎晩どこぞのパブから外国人ホステスを連れ込んだオッサンどもが、あんなことこんなことしている訳なのである。
しかし宗教法人だのを抜きにすればこんな状態のいい安宿はある意味貴重だとも思える。宇宙真理学会は中部地方を中心に廃業したボロいめのラブホテルを安値で買い取って、比較的お値打ちな料金で営業をしているのだ。貧乏旅行者には有り難い限りだが、税務署から見れば「脱税行為」をしている悪徳業者である。
宗教法人を隠れ蓑にした悪質な所得隠しの手法
宇宙真理学会は、経営するホテルで宿泊料の約4割を「お布施」として処理し、売上から除外する形で課税逃れをしていたといい、悪質極まりない手口である。
もともと宇宙真理学会は昭和58(1983)年に香川県丸亀市で設立され、その後本部を多度津町に移しているが、長年休眠状態で宗教法人としての活動の実態が無かった団体である。全国には設立者が死亡するなどして休眠状態になった無名の「宗教法人」が多数存在し、それらが売買され、この宇宙真理学会のように脱税の手段として用いられている。
ちなみに宇宙真理学会を買い取ったという実質的経営者は、香川から遠く離れた「長野県千曲市のキノコ・野菜類加工販売会社『小松食品』の前社長」。ちなみにこの宗教法人は2017年7月に「破産手続開始」の決定を長野地裁上田支部より受けている。今でも営業しているんでしょうかね、このホテル。