長野県千曲市…善光寺詣の精進落としの湯として栄えた温泉街「戸倉上山田温泉」は怪しい夜の街としての側面をも備えつつ、現在も長野県随一の温泉地として名を馳せている。
戸倉上山田温泉を訪れると、立ち並ぶホテルのオンボロ具合も、歓楽街の場末感の強さも、旅情を誘うのに十二分な要素を持っていて素晴らしい場所だ。
温泉街を見下ろすようにそびえる城山の頂上に「戸倉上山田」と一文字ずつ、さらに逆さクラゲマークのネオン看板まで置かれているのも、非常にたまらない演出である。
だがその看板の傍らで、かなりでかい寺院のような建物が見えているのが分かるだろうか。戸倉上山田温泉でもう一つ欠かす事の出来ない謎の施設が、あの山の頂上に隠れているのだ。
温泉街を離れ、車で急な峠道をひたすら駆け上がって行く。やがて頂上に至るとこの建物が真ん前に現れるのだ。その名も「日本歴史館」。まあなんとも特徴に欠けるネーミングの博物館がこんな山の頂上にあった訳だ。しかし建物の様子を見ても全く人の気配もなく、むしろ思いっきり廃墟と化している雰囲気すら感じられる。
傍らの建物もどうやら廃墟臭い。統一感のない配置で大黒様・恵比寿様・観音様の石像が置かれているのみ。看板を見ると八王子市にある雲龍寺(かなりの珍寺)の所有地と記されていた。
我々はうっかり見逃していたが、この建物の裏手に回るとロープウェイの廃墟が存在していた。平成4(1992)年に廃業してから殆ど取り外されて頂上の城山駅だけが残っている。かつては麓の信州観光ホテル付近からこの場所までロープウェイが走っていたのだ。一体どんな風景が見えたのだろう。
さらに向かいの山の上には「善光寺大本願別院」と書かれた寺が見える。日本歴史館が完全な廃墟と思って諦めモード突入か?と思っていたが、どうやら日本歴史館はこの寺が管理していて、拝観希望者は寺に申し出に行けば中に入れるようだ。夜になれば建物もライトアップされているし、厳密には廃墟じゃないわな。
階段の下に設置されているデカい案内図の看板を見ると、この一帯は城山史跡公園荒砥城跡で、日本歴史館や善光寺大本願別院などがあるここいら付近は広大な史跡テーマパークのごく一部でしかないようだ。
なんでこんな施設が出来たのかと思ったのだが「ワンダーJAPAN」の情報によると昭和40年代に信州観光ホテルグループが観光整備を行ったとの事。
信州観光ホテルとは麓のあの巨大廃墟ホテルである。日本歴史館の入るこの建物も、元は「信州観光ホテル別館城山新館」だったという。なんだか色々とカオスな予感がしてきた。
まずは日本歴史館の建物に入ってみようかと周囲を見回したが、建物自体は閉鎖されたままになっているし、管理している寺もあまりに早朝で開いている様子もなかったし、で内部潜入はひとまずお預けにしておいた。
しかし外観だけ見ても充分電波全開だったので、まずはじっくり見て行く事にした。
ガラス戸の向こうから見えるのは沢山の偉人(誰かよく分からない)の姿を飾った額縁が夥しく壁に掛けられている。その奥には何故か病院の病室に置かれるベッドが何台も放ったらかしにされていた。まさかここが病院だったら凄く嫌だよな。
日本歴史館の建物内部については既に「珍寺大道場」や荒川さんのページなど先駆者が詳しくレポートされているのだが、集めた話を要約すると…
・昭和44年の開館以来一度もリニューアルしていない。
・歴代天皇の肖像画などが展示されている。
・入場料は300円、大本願別院地下宝物殿が別途300円。
・信州観光ホテル破綻後、八王子の雲龍寺が建物を買い取った。
・雲龍寺の住職も高齢のため長野まで来ず、施設は殆ど放置気味。
…だそうだ。
ロープウェイもブッ潰れたままだし凄まじい放置プレイですね。
ガラス越しに内部の様子を観察すると、放置された金ピカ七福神像がずらりと並んでこっちを向いてニンマリ笑っていたりと色々不気味である。
さらに意味の分からない西洋甲冑を着た人形まで…恐らく八王子の雲龍寺からここに運んできたものも含まれているようだ。ここを訪れる前に雲龍寺にも行っておけばよかったな。
っていうか通路側にまで謎の七福神像が勢揃いで並んでいた。こっちの七福神像はビックリマンのキャラみたくやけにデフォルメされた感じだ。ホントに七福神好きだよなあ。
建物の脇を抜けるとその先には雑草生えまくりで放置されまくりの一角が現れる。案内図に示されていた「雲龍寺公園」とはこの場所の事である。というかこれはもう公園ですらない。
ただの草むらと化した公園の中には何やら銅像達が寂しくぽつんと置かれているのみ。足利尊氏、蒋介石総統、それにダグラス・マッカーサー…と、歴史上の人物だということは分かっていても、まるで統一感がない。
もっと良く見ようと思って草むらに入ろうと足を入れたが、足元がぬかるみまくって危険なので、遠くから眺めるだけにしておいた。
マッカーサー像は有名な飛行機のタラップから降りる瞬間のシーン。どうでもいいけど蜘蛛の巣だらけで酷い事になっていた。これからも放置され続けるのかと思うとちと心苦しくもある。「日本歴史館」はその存在もろとも昭和の時代から置き去りにされて、上山田温泉を見下ろす城山のてっぺんに眠り続けている。
戸倉上山田温泉を見下ろす城山の上に並ぶ廃墟同然の博物館「日本歴史館」と善光寺大本願別院。そこに隣接して「男女和合の神」と書かれた怪しげな神社があったので、ついでに見て行く事にした。
善光寺大本願別院の横、急坂の脇の法面の上に澳津神社という小さな神社がこっそりと建っている。「男女和合の神はここ」などと書かれていて、いやがうえに気になる。
それで見に行った訳だが、そこには「撮影禁止」の札が無情に置かれていた。これじゃ写真は撮れない…何のオチもない展開だが、石で出来たご立派なちんまん型の御神体が鎮座しておりました。ただそれだけです。
しょうがないので傍らに掲げられた絵馬でも見ていく事に。やはり男女和合の神を祀っているという事で子宝祈願の絵馬ばかりが目立つ一方でこんな訳の分からない願い事が書かれた絵馬まである。メイド喫茶「麗」で働いている「めいみ」ちゃん、此処見て心当たりあれば本人によろしくお伝え下さい(意味不明)