【ご当地焼きそば】こけしとこみせの里「黒石市」でつゆ焼きそばを食す

青森県

弘前駅から弘南鉄道というローカル鉄道に乗って終点の黒石駅まで行く。そこは弘前藩の支藩・黒石藩として江戸時代から長い町の歴史を持つ黒石市の玄関口である。

生協のスーパーと一体化した駅舎の黒石駅。いかにもローカル鉄道だといった雰囲気に満ちている。黒石の街を訪れたのは、弘前と並んで古い歴史のある街だけに色々見所も多いだろうという漠然とした直感からだった。

二両編成の弘南鉄道の電車は弘前~黒石間を30分間隔、約30分で結んでいる。意外にも首都圏や関西で走っている地下鉄車輌に似た形の電車だ。

昔ながらの有人改札の向こうがホームだ。やはりローカル鉄道と言えば通学客である学生の姿が多いようで、連休中でも駅の待合室に居たのはまだ中高生と思える若い学生の姿ばかりだった。

黒石駅の構内に黒石温泉郷の古い看板が掛かっているが、看板の下半分がすっぽり隠されていてどこかしら意味深。

駅の改札からすぐ真ん前が生協のスーパーになっていてやけに所帯染みた雰囲気が漂う。青森県のスーパーということで、何か変わったご当地食品が置かれているかと思って眺めてみたが、南部せんべいがあっただけだ。

黒石駅前には、地元の名物であるこけしを販売する店がひっそりと存在している。黒石のある青森県だけに留まらず東北六県全てにこけしの産地があり、それぞれ製法や特徴が違っている。とにかく東北地方と言えばこけしなのである。

そもそもこけしは温泉地の土産物で生まれたもので、子宝に恵まれるようにという縁起物だそうだが、昔の東北地方の間引きの風習と関連して「子消し」が由来であるという誤った説が広まっているのも、辺境にある東北地方に対する偏見が強いという証左であろうか。

それにしても店が閉まってるからこけし屋が見られません。

駅の周辺を歩くと、駅前の生協以外はさほど飲食店は多くない。少し離れた「こみせ通り」周辺が黒石の中心市街地となっているからだ。

しかし一軒だけ古びた飲食街が残っている。

建物の表から見えるのは不動産屋とカラオケスナック。やっぱり飲み屋が多いビルだからだろうか、どの店も開いておらず閑散としている。

そんな飲食街の入口には謎めいた「サハリン」の文字。物凄く最果ての地に来たような気分にさせてくれる。青森まで来てしまうと民族的にはアジアというよりはロシアの方が近くなるんじゃないのかと思える事がある。北海道ほどではないがアイヌ語を由来とする地名も多いし。

ただの飲食街かと思っていたらコインロッカーも置かれていた。中を通ってみたが、真っ暗で何がなんだか分からない状態だった。

黒石駅から東側に500メートル程歩くと、街の中心で伝統家屋が立ち並ぶ「こみせ通り」に行く事が出来る。途中にはちらほら店はあるが、そのまま素通りしていく。

いよいよご当地焼きそばブームがありきたりのネタとなってしまった昨今、全国各地に「こんな焼きそば地元民でも知らねえよ」と言うような取って付けたような創作ご当地焼きそばが節操もなく増殖している中で、そのブームの火種でもある街の一つに黒石の「つゆ焼きそば」がある。

黒石の街を歩くと至る所に「黒石つゆやきそば」ののぼりを掲げた飲食店が見られるはずである。

発祥は昭和30年代にあった食堂「美満寿(現在は閉店)」で地元の中学生が食べる焼きそばに鍋の底汁をぶっかけてふやかして「少しでも腹が膨れるように」と作られたものがルーツだったと言われているが、市内にある「妙光食堂」が元祖だという説もあって定かではない。

これらの店ではそれぞれ工夫を凝らした「つゆ焼きそば」が提供されていて、それぞれ微妙に製法や具材が変わるのだが、地元の三福製麺を始めとした製麺業者が作る平麺と、青森らしくリンゴ果汁を隠し味に加えた甘辛いソースの「黒石焼きそば」がスープに浸かっているという特徴は共通している。

ともかく黒石の街に来たらつゆ焼きそばの知識が無くとも「やきそばのまち案内所」といういかにも観光案内所です!と気合が入りまくった建物があるのでそれを目指そう。

和服姿の地元の姉ちゃんが津軽訛りで親切丁寧に市内のつゆ焼きそば店舗を紹介してくれるはずだ。

しかし全国各地ご当地焼きそばだらけで笑える。焼きそばで町おこしを始めたのは黒石、横手、それから富士宮あたりが先陣を切って始めたものと記憶しているが。

焼きそばは調理手順が簡単でなおかつ原価も安く腹が膨れる。B級グルメとか言われている以前に、底辺の庶民の常食であり、広範なソウルフードにあたる食べ物なのだ。

黒石市の「焼きそばで町おこし」に対する情熱は半端ない。気合入れまくりの無料案内所はもちろん、こんなオリジナルTシャツまでこしらえて販売中。いやはや恐れ入りました。

黒石市内には30軒以上のつゆ焼きそばを出す店があるが、有名な妙光食堂はひとまずパスで、街を徘徊しながら直感で「旨そう」な店を探し歩くことにした。

こみせ通りを中心に市街地をうろうろするが、いかにも観光客を当て込んだ店も紛れていて、そういう所はなるべくスルーだ。

あれこれ悩んでいるうちに目にしたのは「ヒサ久」というお食事処兼居酒屋のような年季の入った店だ。赤ちょうちんに手描きの看板、そこはかとなく漂うB級臭。それに「男の談話室」という謎のフレーズ。直感が働いた。

ヒサ久ではつゆ焼きそばだけに限らず普通の焼きそばや変わり種が色々用意されているようだ。看板通り、焼きそば大集合である。

全くもって観光向けではない店内に入ると、お食事中の客が数名。地元民が一人で黙々と食っているばかりで静かな空間である。

そういうわけでヒサ久の「つゆ焼きそば」(500円)を食う事にした。本当につゆを掛けた焼きそばで、具材はとりわけこだわりもなくオーソドックスである。付け合わせに甘く煮詰めたリンゴがついてくるのが実に青森らしい。

特別激ウマと言う訳でもないが、黒石市民がなるほど常食とする食い物なのかと納得。素朴な昭和の味がした。

もう一つは「つゆかけ焼きそば」(650円)というものもあった。これは普通の焼きそばにつゆが別で付いてきて、それを掛けながら食べるというもの。いずれにしても変わっている。こちらはちょっと値段が張る分、具材は少し多彩になる。付け合わせはカボチャの煮付け。

さほど多い量ではなかったが、腹が苦しいくらいに膨れてしまった。本当に「おなかいっぱいになるまち」ですね。そういえば青森にやってきてからほぼ麺類しか食っていない事に気がついた。


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