石巻市は仙台に次ぐ宮城県第二の都市。人口は約15万人、当然ながら盛り場も充実していて、立町通りとことぶき町通りの2つの通りから内側、羽黒山の山裾に巻き付くような形で広がっている。
我々取材班が石巻を訪れたのは田代島で猫と戯れたり街の復興状況を見たりもあったのだが、この街の盛り場にある成人映画館が震災・津波の被害にもめげず営業を再開したというめでたい一報を聞いての事だった。
古びたスナック街が山裾に沿った路地裏に形成されている。震災前に来ればもっと雰囲気がよかったのだろうが、結構取り壊されて無くなっている建物も多い。このスナックも建物は見た目無事そうに見えるが、移転を知らせる張り紙がベタっと玄関ドアに貼られている。
スナック街の路地にあるレトロ感満載な飲食店ビル「名阪プリンス街一番街」。なぜ石巻なのに名阪なのか意味がよく分からんが猥雑な空気が残っていた。津波を被ってなおかつ老朽化もしていたせいか現在は取り壊されて存在しない。
隣り合って建つ名阪プリンス街二番街の方は、外壁が塗り直されてリニューアル営業している。随分小奇麗になってしまった。
さらに山裾に沿って南側へ。アメリカンレトロな風情漂う「ミニサロンLOLO」って何のお店でしょうな。山側には壽福寺や永巖寺といった寺が並んでいる。盛り場と寺町が隣り合う事って結構多いよね。
まるで青線か何かを思わせる如何わしいレトロ風味な店舗の跡が非常に多い。このへんも確かに津波でやられたはずだが、建物が解体されるほどのダメージは受けていないようだ。
震災前までは本サロもあったそうな石巻の街。そりゃ荒くれ漁師も多いだろうし風俗関係が充実していても別段おかしいとも思わんが、そろそろソッチ方面も復興してもらわないと街が寂しくなっていくだろう。
「おだずなよ津波!!もう来んな津波!?おっかねがら」どこからともなく貼り付けられた被災者の叫び。…「おだずなよ」とはこっちの方言でふざけんなよ、の意味。これはネイティブじゃなきゃ分からん。
そんな場所に建つ一軒の古びた建築物。ここがどうも我々が探していた成人映画館「日活パールシネマ」らしい。まるで廃墟のような佇まい。本当にやってんのか?
ちなみにこの成人映画館が建っている土地、元は吉田松陰の宿所跡(粟野邸)だったらしく裏側にはこんな立て札が。何の因果か。
表側と裏側両方から入れるらしいが、まるで廃墟家屋のガレージのような佇まい。想像以上に煤けっぷりが半端ないぞ。そこにはあられもないポルノポスターが並び男性諸氏の劣情を誘う。
しかしちゃんと映画館の表側を見ておかなければ。ビル自体僅かにことぶき町通り商店街に面して建っていた。清野屋酒店の看板も同じビルに並んでいる。元々は酒屋だったが大正時代に先祖が兼業で芝居小屋を始めたのが最初だとか。またやけに古びた「日活パール」の看板もいつから使われてるのだろう。
ビルの1階部分が通りぬけ出来るようになっていて、その奥が開けている。いやあ楽しさいっぱいです本当に。さて入りますか。映画興行の案内はその多くがご主人の手書き。旧字体を使っている所なんか見るとかなりお年を召された方であろう。内部は総数180席のシネマ1、80席のシネマ2に分かれている。
震災後の津波で2つあったスクリーンは水没、さながら室内プール状態にもなったが震災3ヶ月後の6月20日に「シネマ2」だけが再開された。わずか3ヶ月という所が気合の入りっぷりを示している。ただ上映されている映画のタイトルがアレだという理由で新聞紙には再開の告知は出せなかったらしい。
んで、成人映画館と言えば当然の如くおホモだちの皆様方の社交場と化す訳であるが、再開後もしっかりハッテンしているのである。実は県庁所在地で政令指定都市なはずの仙台市には成人映画館は一軒たりとも残っておらず(東北六県全体でも現存する成人映画館は弘前と石巻の2軒だけ!)、ここ石巻市の日活パールシネマのみが宮城県で唯一残る大人のオアシスになっていたのだ。
表通りに建つビルの下を跨ぐと中央部分に開けた一画がある。この奥が映画館になっているのだ。この凄まじい退廃感、壁一面のポルノポスターの渦…ついこの間、熾烈な震災と津波がこの土地を襲った事など忘れさせてくれる。
現在この映画館は85歳になる主人(※追記あり)が個人で切り盛りしている。今でこそエロ映画館だが当初は洋画中心でやっていたとの事。「地震や津波が来ようが、ポルノでも何でも、表現者のためにこの映画館は閉じない」と意志は固い。
そんな色街を見守るかのごとくそびえる永巖寺の山門。再びこの界隈が栄え色めき立つのは何時になるだろうか。ともかく、エロなくして被災地の復興はなし!がんばろう東北、がんばろう石巻。
<追記>石巻市「日活パールシネマ」は、支配人の清野氏が2017年8月5日に90歳で死去された事で現在休館中とのこと。