【防府市】幻の赤線地帯・三田尻港「旧開地遊郭」を歩く

山口県

山口県防府市にある三田尻港は中世の頃大宰府に左遷される途中の菅原道真公が福岡へ渡る前数日間滞在し防府天満宮の縁起となった事もはじめ江戸時代には萩藩の毛利氏の水軍拠点ともなったそれはそれは大変歴史のある港町なのであるが、この三田尻港には「開地」と呼ばれた遊郭もあったと聞く。

この三田尻港という場所は防府駅南東2キロ程の場所にあり近隣には鐘紡や協和発酵の広大な工場敷地が連なる一大工業地帯の一角を成している。港から見えるのは工場とその煙突群。工業都市防府を身近に感じる事が出来る街になっている。

その割には江戸時代以前の歴史を感じるような史跡らしきものもあんまり見当たらない気がする三田尻だが運河の突き当たりの所にある住吉神社には幕末の文久年代に建てられた大きな石灯籠がそっくりそのまま残されている。

しかし運河沿いを見るとやけに不法投棄が多くなんだか微妙な雰囲気。やさぐれっぷりが容赦無い。せっかく歴史ある港なのに観光整備する気がさっぱりないらしい。

おまけに廃棄された軽自動車まで…平成の三田尻港は車と家電の墓場になっていた。かの道真公もゆかりの港町の現状に苦笑いするしかなかろう。

さてさて、今回の目的地はそんな三田尻港の一角にある遊郭跡(開地遊郭、福装町遊郭とも)を見に来る事であった。歴史ある港町には遊郭はつきものだがここ三田尻も例外ではない。この運河に程近い三田尻三丁目のあたりがそうらしいんですが…

遊郭跡の目印はこの三田尻交番である。古今東西なぜか遊郭の入口には交番がある。飛田も吉原も長崎丸山もそう。

そんな交番の目と鼻の先にある「スナック街角」。細い路地に面しているが全面ガラス張りのけったいなスナック店舗だ。実はこういった店で夜な夜な秘め事が繰り広げられていると聞いたのだ。それはかつての遊郭という歴史の残骸なのか。

随分廃墟も多いしかなりくたびれた感じがする住宅街のように思える三田尻三丁目だが、こんなガラス張りのスナック店舗がいくつか存在する。言うなれば特飲街、ちょんの間地帯の成れの果てだ。

別段何も無さそうなはずの土地にひたすらスナック店舗ばかりが残っている。その数およそ十数軒。そのうち半数以上は既に廃屋と化しているか、店を畳んで看板を外している。

路地を進むとこういったプレハブ建築のスナック店舗までもが軒を連ねているのである。当然昼間来ても何もないのだが、これが夜になると「営業」を開始する。真っ暗な路地にスナックの明かりだけが死にかけの蛍の如く灯るのだ。

空き地だらけだったりやけにプレハブ風の店が多いのは1999年の台風18号による高潮被害で家が流れたり結構な被害を蒙った影響らしい。元遊郭というのもあるが今でも周囲の街並みはすこぶる庶民的でほの暗いオーラを背負っている。

どうも交番の前にある2本の路地に沿った所が三田尻の遊郭跡らしい。もう片方の路地に入るとこれまた廃墟だらけでかなり異様な光景を晒している。かつての妓楼の末路か。

しかしよく見ると玄関脇にスナックの看板が外れたままぶら下がっているのが見られた。スナック美鈴のママはどこへ行かれたのでしょう。

まだまだ廃屋とまではいかないもののどう見ても妓楼ですありがとうございました的な物件が僅かながらに残っている。遊郭廃止後は料亭か旅館だったかも知れんが廃業してますね。

三田尻の遊郭跡は新開地とも呼ばれて戦後の一時期を超えて売防法施行後まで長々と栄えたみたいだ。防府市三田尻出身の作家伊集院静氏の自伝的小説「海峡」三部作でもこの三田尻の遊郭跡が取り上げられている。

ちなみに天神町銀座商店街の一角でも防府が舞台のアニメ映画「マイマイ新子と千年の魔法」のシーン集が展示されていたのだがその中に「港町(開地)」と書かれたワンシーンがあった。これも三田尻の事だろうな。現物は著作権云々問題があるので映画を見てみよう。

またしても空き家となったあばら屋。一階部分はガレージか何かに使われていたのかガラーンとしている。その両脇は空き地。寒々しい光景だ。

その建物の左側にスナックの看板と玄関口だけが残る。スナックむらさきと書かれたくすんで色褪せた紫色の看板。それにしても相当キョーレツなあばら屋である。

現在は路地にスナックがひしめくだけの廃れた一帯にかつての遊郭跡を偲ばせる史跡めいたものは見当たらない。土地の歴史が今にもかき消されてしまいそうだ。

恐らくかつての遊郭の内と外を分けていたであろう水路が残る。お歯黒ドブみたいなもんか。橋を渡った先の所は怪しいスナック街がパッタリと途絶える。

その水路の向こう側から遊郭跡を眺める。古い石塀が連なっているのが見えた。まさか遊郭の壁か?それともただの防火壁か?

三田尻のスナック街が「現役」と聞いていたので夜遅くに出直してきた。交番に最も近い「街角」の明かりが煌々とついている。試しに車で通りがかったらガラス張りの店内からスケベジジイと戦後のパンパンガールがそのまま年老いたかのようなド派手ないでたちの婆さん達が一斉にこちらを振り向いてきて、ただならぬ殺気を感じて逃げてきた。5~6人くらいは居ただろうか。もう一軒開いていた他の店ではわざわざ車を近づけただけでオバハンが玄関口を開けて手招きしてくる始末。

後で調べるとこの三田尻のスナック街は地元で「心霊スポット」扱いされているらしく(笑)60とか70といった婆さんがひっそり春をひさいでいる場所だと聞いた。恐ろしい…山口県にこのような場所があるとは…飛田の妖怪通りの比ではないな。


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