八女市本町「土橋市場」 – 神社の境内に作り上げられた戦後のドサクサ商店街を歩く

福岡県

福岡から国道3号を南へ走ると福岡県側の一番最後にある八女市は最近合併で周辺町村を巻き込んで面積だけは随分巨大化してしまっている街だが、茶処として有名なだけでなく、ついこの間刑務所から仮釈放で出てきた元ライブドアのホリエモンこと堀江貴文氏の出身地だったりする。そんな八女の街に、戦後の闇市上がりな市場があり、それが神社の境内と見事に合体しているという話を聞き、どうしても立ち寄りたかったのだ。

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八女市の中心、旧福島町の市街地にある「土橋八幡宮」にやってきた。相当な歴史のある神社のようだが、鳥居を越えた先は月極駐車場になっているというのっけからの俗っぽさ。これも地域の一つの土地活用法なので部外者がどうこう言う話ではないのだが、ちょっとシュールだぞ。

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月極駐車場と化した参道を過ぎるとその先には相当年代物な楼門が現れる。明らかに神社の境内には違いないが、そんな場所に「お買物は土橋商店街」と書かれた街灯看板が設置されている。

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そしてその楼門を取り囲むように戦後の時代に建てられたらしい古い2階建ての店舗建物が建ち並んでいる。ちょっとこれは尋常じゃありませんぜ。なんでこんな事になってしまったのか、土橋八幡宮よ。

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そしてこういう場所柄だけに野良猫がやたらと多いのね。楼門の下でカリカリ爪を研ぎまくっているサバトラ子猫さん。

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楼門の右側に建つ2階建ての店舗長屋に足を踏み入れる。ここは1階部分の軒下が通路として使われているのだが、片側は水路で、古びた石造りの欄干がそのまま残されている。これも明らかに神社のものであり、欄干の柱にはその当時の寄進者と思われる個人の名前が刻まれている箇所もある。しかし欄干の上も商店主の趣味であろう植木鉢や盆栽を載せるためのスペースに使われている。

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戦後間もない頃、旧福島町の中心であった土橋八幡宮周辺には闇市の露店が多く立ち並び人がごった返して収拾のつかない状況だったそうで、それを見かねた当時の県議(福島劇場オーナー)の働きかけで八幡宮側に境内の土地を商店街として使わせてもらえないかと懇願、許可が降りてその直後に店舗の建物が境内に次々建てられ今の状況になったそうだ。当時は旧福島町出身の引揚者が店主として境内の商店街で店を開く事が出来たという。

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しかし元々あった商店街はモータリゼーションによる市街地の郊外化などで次々衰退し始め、その代わりにスナックや飲食店が軒を連ねるようになった。かなり寂れてしまったとは言え現在も戦後の闇市時代の名残りを留める土橋市場は、その名称とは裏腹に地元のナイトスポットとして地味に現役として活躍しているのである。

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ちゃっかりトタン屋根で雨露がしのげる構造になっている土橋市場の中にお邪魔する。この写真一枚だけ見せられてここが神社の境内だなんて解る人は地元民以外にどれだけいるだろう。スナックや飲食店は昭和40~50年代に開業した店舗が多く、店の看板達もどこか前時代的でレトロ風味を盛り上げているのがいい。

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しかし一方ではでかい鰹のイラストが描かれた食料品店の看板が残されていたりして、往時の市場の名残りをあちこちに留めている。天井から吊り下げられた「毎度ありがとうございます」の看板や電灯カバーもさりげなくシブい。スナック街として機能しているので、共同便所もあるし、今も綺麗に管理されている。

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市場のほぼ中央にある「土橋市場組合」の事務所も昭和な佇まい丸出しで我々を出迎えてくれた。町内会の事務所や八女料飲旅館組合の事務所としても使われているようで何枚も看板が上がっているが、一方で「防犯」「暴力追放」の文字も躍っている。様々な生臭い戦後史を想像させてくれそうな暴力追放の四文字、あれこれややこしい事も経験してきたんでしょうなあ。

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そして事務所の前を通る一番幅の広い路地を東側に突っ切れば、そこに土橋八幡宮の拝殿が控えている。周辺はかなり寂れてしまい正直ちょっと気の毒なくらいなのだが、さすがに街の中心のお宮さんだけあって立派な姿を見せていた。八女出身のホリエモンも幼少時はここにお参りに来ていたんでしょうかね。

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戦後特有の事情で神社や寺の所有地が商店街として転用されるケースはこの土橋市場以外にも佐賀市の佐嘉神社西側の松原マーケットをはじめ全国に多数存在している。まだまだ探せばあるかも知れんな。最後に神社の鳥居が両側の建物に豪快にめり込む光景を目にしながら土橋市場を後にした。福岡県の中でもややマイナーな感じのある八女市だが、なかなかDEEPな隠し球を持っている。

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