ネオンがギラギラしまくりんぐ状態な周囲の繁華街とは一線を画す底なしの場末感、これぞ孤高の飲食店街、その入口の入りづらさも半端ない。
しかし一旦入ってみればどうってこともない普通の健全な飲食店街。地下へ続く階段には重厚な防火扉がありもしもの時には閉まるようになっているらしい。この時期の建物にしては防災設備が整っている。
札幌はそれだけ火事が多い土地柄かも知れないが、ススキノアパートが出来た1958年あたりは路上に粗末なツブ焼き屋台が数多く出ていて、そうした屋台が火災の原因になったり、はたまた売春斡旋の温床になっていたらしい。防火扉には客引き禁止を禁じる警告看板があった。火遊びは他でやってくださいと言わんばかりに。
階段の上の所にもススキノゼロ番地入口と示された看板があるのだが、そこには「ススキノ発祥の地」とも書かれている。ここが発祥なら明治時代の薄野遊郭は何なんだろう。果たして発祥の地、ゼロ番地とはいかなる理由で付けられたものだろうか?
地下に降りるとそこがゼロ番地飲食店街。防火扉の先の廊下に一直線に飲み屋の玄関が向き合って連なっている。なかなか渋い光景だ。
反対側を見てみるとこんな感じ。おおよそ店舗数は30くらいといった所だろうか。どの店の看板も昭和レトロを残したもので、見た目通り足掛け数十年続いている老舗のスナックも多いようだ。
中央階段付近には男女別にちゃんと共同トイレが置かれていた。なぜか2、3段の段差があって高い位置にトイレの入口があるという不思議な構造。
さっきの客引き禁止看板もそうだしこれもそうだが警察関連の看板が目立つ。これでもかと健全な飲食店街をアピールしている。周囲が軒並み胡散臭い店だらけなので尚更そうなるわな。
ロケーション的にはまさしく大人の隠れ家といった所だが客層も地元の常連ばかりのようで観光地的な要素は皆無である。端の方に行くと結構雰囲気が不気味な感じ。人通りもないし。
この辺とかは現役で営業しているのかどうか怪しくなってくる。店舗テナントは最大32件入居出来るようになっているが、実はこう見えてもその殆どが埋まっているらしい。やっぱり場所がいいからかな。
でかい矢印の形をした壁のオブジェ?が特徴的なスナック。一部に看板のアルファベットが崩落してわざわざマジックペンか何かで書き直している健気さが見られる。
たまーにふらふら常連客が入ってきたり、スナックのママがひょっこり顔を出してくる程度。まさに知る人ぞ知る飲み屋横丁といったところか。これでも昔はもっと賑わっていたらしい。
ちなみに市場のある1階部分は札幌振興公社が、2階から上の住宅は住宅・都市整備公団(現在のUR都市機構)、そして地下部分は「札幌市薄野ゼロ番地飲食業協同組合」がそれぞれ区分所有していてバラバラになっている。老朽化で建て替え話になっても、話がまとまらない理由の一つになっているようだ。
結局すすきのゼロ番地という名称の由来もよく分からないままだったのだが、階段の踊り場付近にゼロ番地のブログを開設した旨が掲示されていて、ゼロ番地のルーツのご案内とあったので読んでみた。
それによると「地下で番地がなかったから」「ゼロからの出発という意味だから」という曖昧なものしかないようだ。しかしすすきのに数ある飲食店ビルの中でも飛び抜けてレトロっぷりが抜きん出ているのは間違いない。戦後の長き時間の重みと比例して「ゼロ番地」の言葉はそれなりに深みを帯びている。
参考ページ
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