沖縄本島最北端、山原の密林を縫うように走る唯一のアクセス道路となる国道58号をひたすら走り続ける。辺戸岬を超えてさらに車で10分、国道58号の起点となる土地に「沖縄本島最北端」の集落がある。
その集落の名前は「奥」。もうそのまんま過ぎて笑ってしまうのだが、見た目にもマジで山原の奥にあるから地名も奥な訳でしょうがない。沖縄本島でこれ以上秘境気分を味わえる集落は他にないだろう。
国頭村に属する奥は人口200人ばかりの小さな集落だが、本島最北部の山原地域では最も人口がある地区だ。山原の森に囲まれた谷間に開けた狭い土地に古くから集落が形成されていて、歴史が長い。
奥集落の入口にはもっともらしく「ようこそ奥へ」と書かれていて観光客ウエルカムな感じを受ける。これを見た後に「クッククック♪わたしの青い鳥」と歌いたくなったら世代がバレてしまう事必至だ。ヤンバルクイナはいても青い鳥はどこにもいない。
そんな奥集落までわざわざやってきて、やる事と言えば「奥共同店」を尋ねる事くらいか。言うまでもなく奥集落唯一の買い物拠点であるが、過疎地の村人同士の出資で運営する共同店という形態を持つスーパーマーケットとしては沖縄最初の発祥地であり、100年以上の歴史を誇る何気に凄い店でもある。
中に入ってしまえばごく普通のスーパーマーケットでしかないが、その入口には「国頭村奥共同店」の文字が。明治39(1906)年に開かれ、その後一貫して地域の買い物拠点として機能してきた。
共同店の形態は本島全域に普及したが、戦後都市化が進んだ本島南部地域では壊滅し、現在は本島北部や離島に若干残っている程度だ。食品全般から日用品まで不便ない程度に品揃えも豊かである。
共同店の真向かいには奥集落唯一のガソリンスタンドも。セルフスタンドのようだが、一応店の中に入って店員を呼んで給油をお願いしなければならない。
奥共同店脇の民家の壁には意外にも日本らしい茶畑の絵が大きく描かれている。奥集落は沖縄本島随一の茶どころでもある。日本茶(おくみどり)を中心に生産が行われているのだ。気候も沖縄本島にありながら涼しく、毎年冬には「国頭村奥でこの冬一番の冷え込み」などと地元ニュースで報じられるくらい。そんな条件が茶の栽培に適しているからだそうで、意外だ。
奥共同店は小さな集落の集会場のような役割も持つゆえ、店の玄関脇は近隣住民向けの掲示板状態になっていた。傍らには路線バスの時刻表もあるが、奥集落に向けて走る村営バスは1日たった3本しかない上に、辺土名までしか行かず名護方面に行くには乗り換えたりする必要があり時間も掛かる。よほどの暇人でない限り旅行者は車で来るしかない。
沖縄の北の最果て奥集落での暮らしも楽ではなさそうだ。仕事を探すにも土木工事しかないようでこんな張り紙が出されている。日給12000円は沖縄では結構な高給だが、トンネル工事は危険も伴う仕事だし。
共同店のある土地から裏手の路地に入ると古い共同店の建物が残っていた。同じように「国頭村奥共同店」の文字がある。元はこっちで店をやっていたのだろうか。シャッターが閉まったままの店舗は放置プレイをかまされている。
こんな特殊な土地柄だけあって、例に漏れず過疎化が激しいようだが、国道58号の起点でもあり、文字通り「奥」の土地を目指すべく訪れる我々のような物好きがヒョイヒョイ紛れ込んでくるのかして、通年的に旅行者が泊まれる宿も数軒あるのだ。
ここまで来たからには一泊くらいして行かないと値打ちがない。どっしり根を降ろして沖縄本島最北端、最果ての街並みを探訪する。
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