尾道からしまなみ海道とやらを抜けて本州から陸路で行き来できる四国・愛媛の今治市。タオルと造船の街、それから某焼肉タレメーカーの悪趣味な宮殿があったりする。県庁所在地の松山市には何度も来ていてその度寄ろうと思いつつも来れなかったが、先日ようやく今治に訪問できた。
この今治市、駅前のオンボロ横丁にしろ蒼社川のバラック家屋群にしろ見所多すぎて楽しい街だったのだが、まず今治に来て訪れたいと願っていたのが共栄町にある「今治ラヂウム温泉」。今治駅から北、ドンドビ交差点やら商店街を抜けた向こうに位置している。見るからに物凄い佇まいだ。
昭和2(1927)年築の恐ろしく立派なレトロモダンな洋風城郭的佇まいの建物は遠くからでもかなり目立つ。見よ、この威風堂々たる洋館の迫力を!レトロ建築好きにはヨダレが止まらないクオリティの高さです。
今治は戦災被害が酷く市街地の8割以上が焼失、そのせいで戦前建築は殆ど残っていないという事だったが、この今治ラヂウム温泉の建物だけは奇跡的に被害を免れたそうで、現在でも存在感抜群。1階部分が浴場となっていて2階がかつてダンスホールとして使われていたらしい。そして3階部分は「青雲閣」というホテルになっている。
シャレオツモダンなデザインが幸いして、戦時中の空襲において米軍がここは「教会」だと勘違いしたせいで攻撃対象から外されたとか何とか。相当くたびれた感は強いものの、確かに神聖そうなオーラが漂っているかも知れませんね。
建物の外観だけでもハァハァしまくりで興奮が冷めやらぬ感じではありますが、特に一際目を引くドーム部分は大浴場の屋根にあたるようだ。それに対して傍らから伸びている煙突は赤煉瓦で、微妙な統一性の無さが逆に強い個性を放っている。
しかしラヂウム温泉の手前にあるタバコ屋もいいアクセントになっていますな。どう見てもタバコ屋なんだけども黄色く目立ったテント看板には「たばこ(株)ラヂウム温泉書籍部」だなんて書かれている。昔は本屋もやっていたのか、それとも出版業の方でしょうか、詳しくは分かりかねますが…
我々が今治にやってきたのはこのラヂウム温泉の3階にある「青雲閣」で一泊したかったのが第一目的であった。しかしその願望は現地にて脆くも崩れ去る。なんと廃業してしまっていたのだ。
しょうがないので宿だけは別に取っておいて、夜にまた風呂に入りにやってきた。勿論、1階のラヂウム温泉はまだ営業中なのだが、風呂の番頭をやってるオバサンに後でホテル青雲閣について聞いてみた。どうも東日本大震災以降、耐震基準がどうこうでホテルの営業続行が難しくなったらしい。耐震工事の費用が出せないようで、やはりこれが現実なのか…
1階部分の浴場は愛媛県の標準的な銭湯価格で入場する事が可能だ。ちなみにロッカーの鍵を借りるのに入浴料金とは別にデポジット200円必要。外観も凄いが中も凄い。天井が高くなっていて非常に開放感もある。古代ローマ人に扮した阿部寛が居ても何ら違和感ない雰囲気だが、肝心のお客さんの数は物凄く少ない…
築80年以上が過ぎているだけあって壁とかあちこち剥がれ掛かっていたりカビが染みこんでいたり年齢相応の風格を漂わせている。いやあ…泊まりたかったんだけどな…ホテル青雲閣。もう5年早く来れば良かったという言葉が出るのもこれで何度目だろうか。
年季が入りすぎなビンテージ仕様なマッサージ椅子にぶるぶるマシーン(正式名称失念)まで置かれているこの昭和丸出しなテンションに涙が止まらない。ぶるぶるマシーンは1回10円です。知らない人の垢とかいっぱいこびりついてそうなので風呂上がりに使うのも躊躇いそうになる。
脱衣場には誰も居らず広い空間を独り占めしているようでなかなか贅沢な気分に浸れるのだが設備のくたびれっぷりはさすがに隠せない。あまり設備投資もできないようでロッカーなども古く、冬場は暖房が行き届いておらず風呂で身体を暖めて置かないと上がった時にかなり寒い。そして期待通り浴室も古びたままだった。浴室に入ると3~4人くらい地元の爺さんが入ってました。ラヂウム温泉と言うからには放射能泉なんだろうが、それは終始あんまり意識してなかった。
やっぱりこの辺も昔は賑やかだったのかなあ。周囲はスナック街だし。今治自体も大きな街には違いないのだが商店街も夜の街もかなり元気がない印象だった。ラヂウム温泉、次に来た時にもしっかり残っていてくれると嬉しいのだが、見た感じでは行政の働きかけもないと厳しいかも知れん。今治市もバリィさんだのご当地キャラ売りはほどほどに、街の貴重な都市遺産にもっと目を向けて欲しい気がしますな。ホテル青雲閣の再開も合わせて今後に期待したい。
<追記>今治ラヂウム温泉、2014年3月29日をもって廃業したとの情報を得ました。
今治の街中に異様な存在感を放つ「今治ラヂウム温泉」。残念ながらなんと昨日で廃業。内部の様子や詳細はRT参照 pic.twitter.com/7MEZybqK85
— ナタリア・ちぇるるんすかや (@weekend_rrr) 2014, 3月 30