うっかり私有地に道路を作って泥沼化!平成の関所「波崎シーサイド道路」の私有地問題 

鹿島臨海工業地帯などで知られる茨城県の南東部、利根川河口の銚子港をのぞみ、鹿島灘に面して大きく角状に出っ張った先端部に、波崎という街がある。現在の波崎町は神栖市の一部となっているが、この波崎の街を鹿島灘沿いに縦断する「波崎シーサイド道路」がかなりヤバイと聞いていたので、ドライブがてら立ち寄る事にした。

通常、東京方面から波崎シーサイド道路へは銚子方面から来る事になる。同じ茨城県の中でも限りなく端っこにあり千葉県銚子市と生活圏が近い土地柄で、東関東自動車道経由だと遠回りになってしまうからだ。

銚子大橋を渡って5分もすれば波崎シーサイド道路に辿り着く。シーサイドとは言うが、確かに海沿いを走っているとはいえ、防風林に阻まれて直接鹿島灘を拝む事は出来ない。

この波崎シーサイド道路、全国的にも稀な土地トラブルを抱えているオマヌケな道路として知られている。現在は神栖市の「市道」で、波崎町から鹿島灘沿いに北上する全長20キロ近い道路のうち、一部が「私有地であることが判明した」ために通行止めになっているというのだ。

そのため、シーサイド道路を通ってきたドライバーは、私有地のかなり手前の場所で見ての通りの「これより先一般車輌進入禁止」の警告看板に従って、大きく迂回する必要があるのだ。

第一の通行止めバリケードの前には、神栖市による案内板が立っている。迂回のために私有地を含む約5キロの区間(広域波崎RDFセンター~しおさい苑付近)を行政が「通行止め」に指定されている訳であるが、このトラブルは神栖市となる以前の波崎町の頃から続いていて、半永久的に解決の見込みはないようだ。

通行止めという看板が立っているものの、この先にある「波崎シーサイドキャンプ場」の利用者は通っても構わないそうだ。ひとまずトラブルの中心にある「私有地」とやらを見ない事には気が済まない。そのまま先へ急ぐ。

ここから先は度々「通行止」と書かれた看板とバリケードで道が半分塞がれている箇所をあちこちで目にする事になる。しかし地元民と思しきドライバーが割と頻繁に通っているのを見ると、本当に通る事が出来ないのか?という疑問が湧いてくる。

海に近いという事もあって道路脇には大量に海砂が積もっている。夏の海水浴シーズンになると、レジャー客やキャンプ場の利用者などでかなり賑わうという。東京から車で2時間もすれば来られる場所だし。

件の「私有地」に近づくにつれ、警告看板の密度もどんどん高くなってきた。ただならぬ雰囲気がしてくる。

そして次の警告看板には「この先、私有地。進入した場合、地権者より料金を要求されます。」と書かれていたのだ。まるで私有地と行政との非武装地帯であるかのようだ。いわば行政側からの最終警告。これ以上進んだら銃殺されそうな勢いだ。

しかしそれにも怯まず実際の「私有地」までどんどん突き進んで行こう。

ついに行政側も嫌がらせのように道路の左右に交互にバリケードを設置してまで車の通行を拒む異常な光景が見られる。しかしキャンプ場や海水浴場もこの先にあるので、知らずにレジャーに来た客はひたすら混乱する事必至。

最後はシーサイド道路自体が封鎖されて、脇道の「有料駐車場(私有地)」に誘導される事になる。道路を通せんぼしている看板の上には赤いパトランプまで回っている。我々の他には誰もいない。本格的にヤバイ空気になってきた。

とうとう「私有地」が迫ってきた。道端のポリタンクにまで執念深く「私道私道私道私道」と書かれている所が実に不気味だが、修悦体に似た何気に芸術的なフォントである。

もしも「私有地」に入り込んだ場合はどうなってしまうのか。

「無断進入した場合は、五百円を徴収されます。」

…これは500円が惜しいなら今すぐ引き返せという意味なのか。

しかし地主に事情も伺いたかった事もあるので、構わず先に進む。そもそも地主に通行料を払って通る為にはそのまま進む以外にないのだ。

またしても道路が塞がれてしまっていて、脇道へ案内されてしまう。よく見てみると反対側にも全く同じ形でバリケードが築かれているのが分かる。つまり地主の了解を得る事が出来れば、通り抜けようと思えば通り抜けが可能なのだ。

まるで江戸時代の関所のようである。手描きの料金所の看板がすこぶるシュールでたまらない。

振り返るとそこには誰もいない。通りがかる車の姿もない。もはや後戻りする事は出来ないのだ。

で、件の「私有地」付近の海岸は妙なガラクタや廃車が乱雑に置かれてはいるが、一応駐車場になっている。夏場を中心に海水浴やサーフィンを目的として訪れる客から駐車料金(および通行料)を徴収しているそうだ。

砂浜の駐車場の上に建つのは地主が設置する管理小屋。完全に手作りの建物でまさに「海の家」を思わせる。飼い犬が一匹座り込んでいるが、我々が近づいてもボケーっと傍観しているだけで吠えたりもしない。

駐車場内で切り返せば「料金所」の反対側の道路に出る事が出来る。私有地周辺の道路は鉄パイプで設営され「料金所」を必ず通らなければ行き来出来ない作りになっている。天気も酷いのでレジャー客と思える車の姿もさっぱり存在しない。

そして通行止め区間の北側に出られた。やはりこちら側も同じように赤いパトランプが回転していて物々しい事この上ない。

海岸や駐車場、それに波崎シーサイドキャンプ場はこの私有地周辺に固まっている。波崎シーサイドキャンプ場のホームページに記されたアクセス案内には「看板を気にせずお通り下さい」と書かれているので笑えてしまう。

「この先、私有地内に道路がある事が判明し…」と書かれた間抜けな看板。

シーサイド道路を鹿島方面に走ると、巨大な風力発電機が砂浜に立っている光景が見られる。東京からそんなに遠くないのに、地の果てにやってきたかのような錯覚に囚われる。

激しく波立つ鹿島灘の向こうは太平洋。地平線の向こうは異国だが、既にこの場所に居る時点で異国に居るかのようだ。ひたすら海しかない。

なぜかこんな所にも砂浜に韓国製洗剤のボトルが漂着している。日本海側の海岸でよく見かけるが、意外な事に太平洋側にも流れ着くものなのだな。

さて、この不思議な波崎シーサイド道路についてもう少し概要を説明する。

元は合併前の波崎町が鹿島臨海工業地帯の開発に合わせ1970年に整備した道路で、それから24年が経った1994年に現在の地主が土地を購入。後に町道約80メートルが土地に含まれていた事が発覚、私有地の境界線を巡るトラブルで当時の波崎町を相手取り最高裁まで裁判に持ち込まれたという。

土地取得の時点で落ち度があった波崎町は敗訴し、地主の権利が認められた訳だが、その後もずっと町道として地主に使用料を払い使い続けた一方、土地買収の話を持ちかけて丸く納めようとしていたものの、地主は頑として聞かず、さらに波崎町が合併で神栖市になり担当者も変わった事でますます泥沼化。

しまいには地主が「私道」と書かれたポリタンクや障害物を置き始め、止む無く神栖市側が通行止めの措置に。それもつい最近の話で、それまでは30年以上何事もなく通行出来た道路だったというのが泣ける。

2009年9月には私有地を通りがかったドライバーと揉めて地主の親族が車のガラス窓に肘鉄を食らわせて警察の御用になるなどしてトラブルが絶えない。通行止め措置の後は隣接するキャンプ場や商店も来客が激減して、店は殆どが潰れてしまったという。地主対行政だけでは留まらない大きなトラブルに発展してしまっている。

まあどちらにしろ平成の世に「関所」が存在するカオスな光景がこんな茨城の外れで見られるのだから面白い。もし波崎シーサイド道路を訪れた時はトラブルの元とならないよう、ちゃんと500円玉はご持参の上ドライブをお楽しみください。

<続報>2019年時点で、通行料は500円から“20,000円”に跳ね上がっています。波崎シーサイド道路の走破にはさらなる覚悟が必要です。

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新日本DEEP案内およびDEEP案内シリーズ管理人兼編集長。2007年「大阪DEEP案内」開設、2008年「東京DEEP案内」開設、2009年「日本DEEP案内」開設、2010年「世界DEEP案内」開設、2013年「新日本DEEP案内」開設。2017年6月15日に単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を全国発売。首都圏を中心に飛ぶような売り上げを記録し増刷決定。
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