静岡県奥大井の秘境・寸又峡温泉で起きた金嬉老事件の舞台「ふじみや旅館」の現在

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静岡県川根本町 寸又峡温泉

再び寸又峡温泉の中心部、バス発着場付近に舞い戻ってきた。温泉街はこのバス発着場付近から500メートル程度下った辺りまでの範囲に散らばっていて、大型ホテルから零細個人経営の旅館まで18軒ほどが営業している。

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寸又峡温泉の源泉は明治時代に現在大間ダムの底に沈んだ湯山地区にあった共同湯治場・湯山温泉がその前身で、現在ある温泉街は昭和37(1962)年にボーリングによる源泉開発で湧出した温泉を元としたもので、ぬるっとした感触の源泉は今どきのスイーツ女子軍団に「美肌の湯」としてPRされまくっている。

静岡県川根本町 寸又峡温泉

まあ割と比較的新しく開かれた温泉街だったりする訳ですが、この寸又峡温泉の名を全国区に広めたのがあの「金嬉老事件」であり、88時間の籠城中、その舞台となった「ふじみや旅館」では緊迫の最中、旅館の女将がマスコミからの無神経な電話取材に応じる羽目になったり、まあ色々とろくな事にならなかった訳だ。

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「ふじみや旅館」は温泉街の中腹、メインストリートから外れた場所にあるので、最後に回る事にして、温泉街を一旦下って登る一周コースで見て回る事に。これだけ山奥にありながら観光客の入りは上々で、みんな大井川鉄道のSLとかアプト式鉄道なんかを目当てにゆっくり回るのだろうね。

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道中にはこんなイマドキなカフェ&雑貨店まで出来ており秘境感はたちどころに失せていく。世田谷とかにありそうな小洒落たカフェそのまんまで、こんな秘境の温泉街が何故か女子力UPしまくり。やっぱり道行くカップルも多いし、そういう所だったんですか寸又峡温泉って…

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しかし遠慮がちなホヤホヤカップルなんぞが「寸又峡温泉に行きたい…いや…寸又で行きたい」と話を切り出すのもある意味勇気が要るような…と、下品なネタに走らないように気をつけましょう。

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やはり寸又峡温泉の限られた温泉宿の中でも観光客のシェアを食ってるのが大型ホテルで、特に有名な「奥大井観光ホテル翠紅苑」は寸又峡温泉で最も観光客の利用が多い。秘境の湯と言えばもっとあばら屋でトイレはボットンみたいなのを想像していたのに、これまた秘境らしからぬご立派な建物である。

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翠紅苑は日帰り利用も可能で1人600円、貸切風呂の利用は1組45分3500円。無色透明でぬるぬるした感触の湯はまさしく「寸又峡温泉」の名の通り!これなら一般ピープルの常識的なカップルも大喜びの内容ですね。

静岡県川根本町 寸又峡温泉

温泉街の最も下流側までやってくると広々とした無料駐車場があるので、温泉街まで坂を登る羽目になるのが面倒でなければここで車を停めると良い。この駐車場用地にはかつての「千頭森林鉄道」で使っていた機関車と客車が連結された状態で保存展示されている。

静岡県川根本町 寸又峡温泉

作業員を運搬していた客車の中身もそのまま見られるが、板張りのベンチや床も全て木製で、こんな野ざらし状態で傷んだりしないものか傍目には気になるのだが、また温泉街方面に登って例の「ふじみや旅館」とやらを見に行く事にする。

静岡県川根本町 寸又峡温泉

メインストリートから外れた個人経営の旅館なんかは結構廃れた感じのところがちらほら目立っている。洋風のロッジ的外観で、明らかに旅館だったはずだけど看板を降ろして既に商売やってません的な建物があったり、やはり旅館業界も生き残り競争が激しいのはどこも変わらんか…

静岡県川根本町 寸又峡温泉

有名な鬼怒川温泉の廃墟ホテル群も凄かったけれども、寸又峡温泉における廃業旅館も殊の外多い。体感的には3~4軒に1軒は「旅館かと思ったけど商売辞めてますね」と判断でき、そのうち半数は廃屋化している。有名な温泉地でもこれが現実といった所だ。

静岡県川根本町 寸又峡温泉

個人経営系の旅館では割と評判のある「甚平」。全10室のこじんまりとしたお宿は築100年の歴史的建造物。日帰りのスケジュールでさえなければこの辺に泊まっても良かったのになあ。

静岡県川根本町 寸又峡温泉

そのような個人経営の旅館が立ち並ぶ一画に金嬉老事件の舞台となった「ふじみや旅館」の建物が残っていたが、残念ながら2012年1月に女将の高齢化を理由に廃業していたのだ。ふじみや旅館の館内には金嬉老事件にまつわる資料を展示していた「事件資料館」も併設し一般公開していた。

金嬉老はこの旅館に5日間、計88時間籠城を続け、宿泊客や従業員等13名の人質の解放条件に提示したのは金銭ではなく金嬉老が以前目撃したという「ある警察官の朝鮮人蔑視発言を謝罪せよ」というものだった。この事から、金嬉老事件の発端は日本社会にあった朝鮮人差別だという論調が加わり、日本初の劇場型犯罪として大きな話題を呼んだのである。

静岡県川根本町 寸又峡温泉

「ふじみや旅館」の敷地内には足湯と見られる割と新しく建てられたと思しき東屋が見られた。廃業直前まで経営努力を怠らず、今どきな観光客向けにこしらえられたのだろう。当旅館は寸又峡温泉が開かれる以前の昭和25(1950)年、ダム建設作業員の簡易宿泊所として開設されたのが始まりで、昭和37(1962)年の寸又峡温泉開湯後は温泉旅館として営業、約60年間の歴史に幕を下ろした事になる。

こちらとしては金嬉老事件や在日論の是非を問うのは今更な話なので、それよりもう少し早く「ふじみや旅館」に来て泊まりたかったですねえ…としか言いようがありません。


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新日本DEEP案内およびDEEP案内シリーズ管理人兼編集長。2007年「大阪DEEP案内」開設、2008年「東京DEEP案内」開設、2009年「日本DEEP案内」開設、2010年「世界DEEP案内」開設、2013年「新日本DEEP案内」開設。2017年6月15日に単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を全国発売。首都圏を中心に飛ぶような売り上げを記録し増刷決定。
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