ボートを接岸した浜辺からよちよち歩いて島の入口までやってきた。当然だが人の姿はどこにもない。全くの無人島ではないのだが、4世帯6人が住民登録をしているといい、オーハ島は正確には「最も住民が少ない有人島」である。周囲2.7キロしかない非常に小さな島だが、僅かに人が生活をしている島の中心部を除いては殆どが手付かずのままである。
ようやく、奥武島の東端から見えた送電線の先が見えてきた。電気はともかく水道は井戸水か?と思ったがそうでもないらしく、奥武島から水道管が海底を通ってオーハ島に向けて引かれているんだそうだ。
島内探索でまず気になるのが、オーハ島はハブ天国だという事。人間よりハブの方が圧倒的に多いオーハ島では怪しい草むらに足を突っ込むのは危険。とは言えハブの活動期は夏場が主になるので、我々はハブを目撃する事もなかったのだが、そいつを取っ捕まえて毒抜きして美味しく食べていたのが市橋くんなのだ。
集落の入口となる場所に数隻の粗末な木造船を置いているスペースがある。もちろんこれはオーハ島住民の足として使われているものだ。
北朝鮮から脱出してくるボートピープルの乗る船とさほど違わない随分見た目にボロい木造船(サバニ)に申し訳程度のエンジンを積んでいる島民のボート。市橋くんは本土への帰還で兼城港に向かう時や真水の調達で奥武島に渡る時、人目に付くのを嫌がって基本的には泳いで渡っていたが、時折島民のボートに乗せてもらっていた事もあったらしい。
ただこの日の大潮の時期みたく干満が激しい時間帯になるとボートですら危険を伴う程潮の流れが激しいので、さすがに離島暮らしに慣れた住民と言えども、潮の流れが収まるまでは行き来せずに待っているそうだ。
ボート置き場から少し丘を上がった所からオーハ島の集落の入口が開けている。アスファルト舗装なんて文明国じみた真似すらしていない。ジャングルを切り開いただけの未舗装の歩道が目の前にあるだけ。日本にもこんな場所がまだまだあるんですね。
ちなみにオーハ島はハブだけではなくノニが採れる土地でもあるため、島内では無断採取を禁ずる警告看板が貼り出されている。健康食品として広く知られるようになってからは、勝手に伐採していく輩が増えたのだろう。市橋くんと一緒で捕まるだけなノニ。
オーハ島は明治時代に入植が開始され、サトウキビの栽培などで一時期は人口が約130人居たらしい。年々過疎化が進み、こうした廃墟化したプレハブ小屋なんかが見られる。
島内の生活道路はさらに奥へと続いている。どこまで進んでいいのか判断が付かないが、ここは好奇心の赴くままに行くしかない。未開の部族でも現れそうな雰囲気すらある。
傍らには今にもハブが飛び出しそうな感じの鬱蒼としたタコノキだらけの密林も見られる。酷く現実離れした場所だ。市川市の行徳から逃げ出して全国を周り巡ってきた逃亡犯が最後に逃げ場として選んだ島の風景がこれだ。
そうこうしているうちにオーハ島で初めての人家を見つける。伝統的な古い琉球家屋である。築何十年くらいになるのか見当もつかないが、家の軒下に手押し車がちょこんと置かれている以外は生活感が全く無い。既に主人を失い、廃墟と化してしまったのか…
漆喰塗りの白い屋根上には家の守り神であるシーサーが淋しげな表情をして乗っていた。きっとこの島で暮らしていた市橋くんが行き交う姿も見ていたに違いない。
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