観光都市金沢の表と裏の顔が隣り合う風景が見られる「にし茶屋街」に隣接する元遊郭・石坂のスナック街。今でも連れ出しスナックがぽつぽつ営業しているとの話も聞くには聞くが、昼間訪れても店自体が開いていないので確かめようがない。
それよりも石坂が凄いのが遊郭時代の妓楼が今でも細い路地に何軒もしっかりと建っている事だ。ある意味金沢で最もDEEPな路地裏にこれから潜入を試みる。
先ほどの「第三飲食街」の並びにもタイル貼りの遊郭建築が見られたが、こちら側の路地にもちゃんとある。たまたま訪れた時には内装業者が中を工事していたのが見られた。漫然と廃墟のままにしてあるのかと思いきや、必ずしもそうとは限らない。小洒落た飲食店が出来るような雰囲気など全くないのだが。
年月の重みだけではない明らかに異質な重厚感が路地全体を支配している。湿った雪が積もる軒下の空間、そこで繰り広げられた男女の営みは誰にも知られる事もない。
ややこしい路地裏の中に隠し扉のように現れる一軒のスナック。こういうアプローチがいかにも赤線跡らしい。看板も取り付いておらず恐らく営業していない。
路地の中で分岐する裏道はさらに別の路地に通じている。その先もスナックが点在する夜の街。
ここも同様に廃業した店か普通の民家になった妓楼が多いが、2階部分に取り付けられた丸い外灯がそのまま残っている家屋を見つけて小躍りしそうになる。外壁は無骨なサイディングが施されているのが残念だが、こりゃ確かに妓楼だ。
路地を抜けると県道25号側に出てしまうが、その手前のカフェー建築な建物には一品料理屋が入っている。
その向かいにももう一軒立派な妓楼があるが地元のオバチャン達が立ち話していて場所が場所だけに一言断りを入れて写真を撮るのもアレだと思い遠慮してしまった。
それよりももっとヤバイ妓楼が枝分かれした路地の奥にひっそり眠っている。現在石坂に残る遊郭建築では最も大きな建物にあたる。2階部分はすっかり波板に覆われていて中が見れないのが非常に惜しい。
中に大量にガラクタが詰め込まれた玄関先の床には細かなモザイクタイル。もう見るからに廃墟同然な状態ではあるが…
この建物、何が凄いというと美しく整えられた窓のデザインである。奥にある玄関を挟んで左側がこんな感じ。
さらに広いめの玄関が僅かに建物に奥まって配置されていた。それにしてもこの建物の大きさも気になる。現役時代はどれだけの賑わいを見せていたのだろう。豪華さは他の妓楼よりも圧倒的に抜きん出ている。
さらに玄関上の装飾。色んな意味で芸術性が凄い。これを朽ちたまま放置しておくのはあまりに惜しい。まあそれが赤線地帯の運命なのだけど…よっぽど中に入りたいと思ったが無理なのが悔しいですね。
玄関横の窓はまるで化猫がこちらを見つめているかのようなデザインである。上部の三角形と真ん中の菱形にガラスの白い部分が嵌めこまれているだけなのだが、これが不思議に猫に見えてしまう。廓で命を散らせたであろう昔の遊女の怨念を見たような気がした。
玄関右側の窓は下半分が上げ下げできる形のもの。きっと現役時代ならこの窓から遊女が顔を出して「ちょっとお兄さん」などと声を掛けていたのであろうか。
レトロモダンの髄を尽くしたかのようなこの妓楼の廃墟、「石坂」を訪れた際は必ず見ておいた方が良い。金沢にある観光地化された茶屋街よりも生々しい世界がそこに広がっている。
ちなみにちょっと離れてみると目立たないんだよなこれが。隣近所は普通の民家と化していて、意識して近づかなければこの建物にありつく事は難しい。