鹿児島天文館の九龍城砦・祗園ビルの4階にある「軍国酒場」に入隊してきた

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鹿児島に行ったら「軍国酒場」がとにかくお勧めだからと前々から話を聞いていたので、ちょっくら訪ねてみる事にした。昔は軍歌が歌える軍国酒場や軍歌バーといったジャンルの店は昔は全国各地にあったらしく、それは旧日本軍の退役軍人達が戦時中の思い出に耽りながら一杯やる場所であった。だが戦後68年が経った今、経営者も客も次々時代の表舞台から姿を消し、店舗数は全国的に減り続けているのだが、そのうちの一つが鹿児島の天文館にある。

天文館 軍国酒場

鹿児島を代表する繁華街「天文館」。特に山之口本通り界隈は飲み屋街となっていて、夜ともなると活況だ。そんな天文館の一角、白熊で有名な「むじゃき」のビル裏手にまるで鹿児島の戦後の闇をそのまま封じ込めたかのような異様な外観のビルがそびえている。今は亡き香港の無法地帯「九龍城砦」を彷彿とさせるかのようだが、1階の外に面した部分は飲食店が並んでいる。

「祗園ビル」という名前だそうだが、そこには還暦を過ぎたようなしわくちゃ婆さんが桜島の灰の香りが鼻につく路上に椅子を出して座り込み客引きをしている姿が見られる。今回訪問する「軍国酒場」はこのビルの4階にあるのだ。

天文館 軍国酒場

雑居ビルの入口に立つと、勢い良く昔の軍歌が大音量で流れていて異様さに拍車が掛かる。入口の両脇に陣取っている客引きの婆さん達の視線がなおさら入りづらい雰囲気を醸し出しているが、意を決して入ってみる。

エレベーターもなく、階段をひたすら4階まで上がっていくと、軍国酒場の店主が壁の至る所に貼り付けた看板や万国旗の類が現れる。何も知らず興味本位でここまで来る観光客がいても、恐らく半分以上はここで怖がって引き返していくだろう。しかしこの程度、本物の戦場を潜り抜けた軍人達の恐怖を想像して比べれば、何の事はない。

天文館 軍国酒場

ビルの2階から上に登ると、住民が生活している部屋もあれば、入口前の壁に案内があるように昔はカラオケボックスや漫画喫茶なども入居していたらしいが、現在はこの軍国酒場以外に営業している店舗はない。軍歌を流すスピーカーがいよいよ近づいてきた。ガンガン鳴り響く軍歌の中、目の前には大量の看板群や店主が自作した大道具の数々が陳列され、さも要塞のような状況となっている。「A飲んで唄って B君と彼女 Cお気軽に」と書かれた謎のフレーズ。お気軽感は皆無である。

天文館 軍国酒場

4階までやってきたはいいがかなり色々と展示物が置かれているのでどこが軍国酒場の玄関口なのかしばらく判別が付かなかった。戦地を進む兵隊の心境はこのような感じのものだったろうか。いつ銃弾に倒れるやも知れぬ極限の状況…とは程遠いけど、やっぱり玄関口に立つと緊張する。どこの家にもありそうな開き戸だった。ガラガラガラ…

すると店の奥に一人ちょこんと座り込んでいたおかっぱ頭の婆さんがこちらを振り返り「二名、入隊!」と敬礼のポーズ。思わず最敬礼し返してしまった。しかし婆さんとは失礼だった。割烹着姿で「大日本國防婦人會」のタスキを掛けた軍国酒場のママが一人で銃後の守り…いや、店番をしていたのだ。御年80歳になるそうだが凛とした表情である。

天文館 軍国酒場

この軍国酒場、ビルの入口にも書かれていたが「天文館で50年」とあるくらいなので相当な老舗なのだろう。店内の張り紙や写真や小道具、軍服を着せたマネキンや装備品などは全てご主人の長年のコレクションでしつらえたものだ。そのご主人、この日は店にはおらず、ママに聴いた所「土曜日だけやってくる」との事。そう言えばこの日は平日だった…

天文館 軍国酒場

細長い店内にカウンター席と座敷席が向かい合っているが、天井が見えないくらいに枯れ木やら電源コードやらがぶら下がっていてまるで戦場そのもののようだ。どうやら1945年で時間が止まっているらしい。火事になったりしないだろうか…と無粋な心配をする事なかれ。なんというか店全体が「撃ちてし止まむ」な感じです。

天文館 軍国酒場

そうこう言ってるうちに食糧の配給がきましたよ。アルマイト皿に載せられてやってきたのは乾パンに金平糖、落花生という乙なラインナップ。「手榴弾」と称してゆで卵までやってくる。手榴弾か…同じ九州でも、北九州市あたりでは現役で使われてますな…さらにビールは「魚雷」、焼酎は「爆弾」という名で次から次へと援護射撃が掛かる。さすが大日本國防婦人會ゝ長、抜かりがない。食糧配給は大量にやってくるが、もし残した場合でも軍国酒場オリジナル「慰問袋」に入れて持ち帰れるので安心。

天文館 軍国酒場

程良く酒が入った所で婦人会会長の軍歌カラオケが唐突に始まる。我々にも否応無くマイクが手渡されるがこちとら団塊ジュニア世代で先祖に軍人も居ない故「月月火水木金金」と「同期の桜」くらいしか知らず、すみません。カラオケマシンの中にかなりの軍歌レパートリーがあるようだが、3~4曲くらいを勢い良く歌い切るおっ母さん。伊達にこの店を半世紀守りぬいてはいない。

そう言えば80歳になるママ、戦争体験世代でもあった。鹿児島と言えば戦時中は南方防衛の拠点。有名な知覧の特攻隊基地もあって、その関係で鹿児島市内も随分空襲を受けたり色々大変だった訳だが、そんな戦時中の話とかあれこれ聞いたりもしながら、お会計を済ませて退店。

再びママの敬礼に見送られる。「二名、満期除隊!」

天文館 軍国酒場

ついでにお借りしてみた軍国酒場のトイレ。期待通りの和式便器でございます。汚れ防止のためか足を置く場所に新聞紙が敷かれてますね。

天文館 軍国酒場

だがそんなトイレにもいちいち手抜かりしない。軍国酒場のトイレはそこもまた戦場である。「放尿ノ要領」の野立て看板があり隊員達に向けて注意を促しているのだ。

「将兵ハ飲酒中尿意ヲ催シタルトキモ如何ニ緊急ヲ擁スル場合トイヘドモ能ク目標ヲ確認シ照準ヲ定メテ発射スベシ 部隊長」

霧島市隼人町 戦史館

なお軍国酒場のご主人は鹿児島市郊外の隼人町(霧島市)にも「戦史館」なる博物館兼飲食店を構えていて、普段ご主人はこちらの方におられるとか。こっちはこっちで同じくアクの強過ぎる入りづらさMAXな店構えとなっていて素晴らしい。この唯一無二な雰囲気が好きであれば是非とも両方訪ねるのが良い。

軍国酒場

夜総合点★★★★ 4.0

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新日本DEEP案内およびDEEP案内シリーズ管理人兼編集長。2007年「大阪DEEP案内」開設、2008年「東京DEEP案内」開設、2009年「日本DEEP案内」開設、2010年「世界DEEP案内」開設、2013年「新日本DEEP案内」開設。2017年6月15日に単行本「『東京DEEP案内』が選ぶ 首都圏住みたくない街」(駒草出版)を全国発売。首都圏を中心に飛ぶような売り上げを記録し増刷決定。
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