群馬を代表する大温泉街「伊香保温泉」を歩く・2009年版 

群馬県

今でこそ日本人のレジャーはやれ海外旅行だという感覚が当たり前になってしまっているが、まだ海外旅行が高嶺の花だった昭和の高度経済成長期の時代には全国各地にある温泉街に出かけて過ごすのが一般的だった。

日本は世界中の火山の1割を占める「火山国」であり、火山あるところに温泉あり、日本人と温泉の文化は切っても切れない関係にあるのだが、平成の世になり日本全国に存在する温泉街は軒並み寂れまくっており客が来なくなった温泉旅館が次々廃墟と化し無残な姿を晒している。

戦国時代の1576(天正4)年に日本で最初に温泉街の都市計画が行われた。東京から北西に100キロに位置する群馬県の伊香保温泉である。

束の間の休暇を楽しむついでに全国の温泉街を回ろうと言う事になった。その第一弾がこの伊香保温泉だ。よりにもよってネットで宿泊代の一番安い宿を選び予約を入れた。それが伊香保温泉街の石段中程にある「有明館」という名前の宿だった。

有明館は2階建ての相当年季が入った木造家屋である。2階へ上がる階段は螺旋状になっており一段一段が板張りとなっていてその下が透けている。こういう場所に来なければお目にかかれない建築様式である。

階段の上まで上がると二枚の札が掛かっている。地下にある2つの浴場は貸切となっていて、使用する場合は浴場の表に掛けておくための札だった。浴場は狭くて暗いがしっかりと源泉掛け流しの鉄分臭い温泉で満たされていた。

案内された部屋に入ってみると50年前の世界にタイムスリップしたかのような部屋で驚いた。だがむしろこのくらい年季が入っている方が落ち着く。素泊まりで申し込んだのだが部屋に置かれているのは浴衣とバスタオル程度で他は自分で持ってこなければならない。歩くたびにミシミシと音がする。

廊下の床は綺麗に磨かれている。施設は古いものの不快さを感じさせない。伊香保温泉で最も安い宿だからか、案外宿泊客は多かった。

ひとっ風呂浴びた後は宿の外に出る事にした。日本各地の温泉街は軒並み寂れる一方だが、ことさら伊香保温泉は2004年に発覚した「温泉偽装問題」で槍玉に上がり、一部の温泉宿で水道水を使っているのに温泉利用と偽っていた事が判明して、風評が一気に悪くなった事も影響している。

温泉宿、お土産屋、そして伊香保の名物である射的場、建物の老朽化も相まって潰れたまま廃墟同然で佇む場所も目立つ。タイル張りの外観が時代を感じさせるぜ。

ほどなく伊香保温泉のシンボルである石段街へと出る。急斜面に形成された温泉街の上から下まで360段。いかにも的な情緒漂い温泉街に来たぞという気分になれること請け合い。

石段にはかつて伊香保を訪れた文学人たちの言葉が刻まれている。夏目漱石、竹久夢二、与謝野晶子、島崎藤村、谷崎潤一郎など。

温泉街のスナック。ネーミングセンスがいちいち古臭くて素敵だ。こっちまでるんるんな気分にさせられてしまう。だがこれらの店が本領発揮するのは夜が更けてからだ。温泉街と言えば夜のお楽しみがあるのだから、日が暮れるまで楽しみは取っておこう。

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