群馬県利根郡みなかみ町と言えば、群馬県最北の街、水上温泉があり、SLを見に来る家族連れ観光客が押し寄せ、死人が出まくる谷川岳、そして上越線に乗れば隣は新潟県…というような所であるが、一度見ておきたいものがあってやってきた。
それが「日本一のモグラ駅」と称される、JR上越線の土合駅。まあ秘境駅のジャンルでは有名過ぎる物件で今更なんですが、駅前にいる客の半分くらいが登山の格好をしている。谷川岳登山の最寄り駅なんですね。そして群馬県最北の鉄道駅でもある。
場所が場所なので駅前にはコンビニやらパチンコ屋といった俗っぽいものは全く存在しない。登山客用の旅館があるくらい。水上駅の2つ先にあり、電車では片道10分も掛からないが、一日の発着する電車が上り下りで5本ずつしかない。まあ、我々も邪道な手段とは解っていながらも秘境駅に車で来た訳ですが。
あ、駅前になんか食堂らしい建物があるぞ!と思ったら容赦なく放置プレイの廃墟だったりするので食料の調達は前もってした方が良さそうなのである。何も谷川岳に登らなくとも余裕で遭難できそうなテンションだな…うっすら「菊富士食堂」と書かれているのが見える。食事は若旅民具茶屋あたりで済ませておきましょう。
「ようこそ日本一のモグラえき土合へ」と書かれた天然木の看板がお出迎え。夏場で連休だったのもあって観光客多かったです。モグラ駅という表現も今更説明するまでも無さそうだが、新潟方面に向かう下りホームがとんでもない地下通路の底にあるのが理由だ。
山小屋を想起させる三角屋根の奇妙なコンクリート駅舎は上越線複線化工事後の昭和42(1967)年に建造されたもの。設備もしっかりしているので、谷川岳登山の前日に駅の構内で寝袋を敷いて寝る客が多いらしい。
で、登山客や観光客がくつろく駅構内を抜けた先に行き先案内の看板がある。国鉄時代末期の昭和60(1985)年に無人化されて以降無人駅である故、本来必要なはずの入場券を買う所がないので、みんなスタスタと改札内に入っていく。下りホームの図の下に、さらっと「486段の階段を降りますので、10分要します」と書かれているところがポイント。
そもそも駅構内にこんな看板がいくつも置かれている時点で登山客しか降りる用事が無さそうなのは明らかである。車で来ても国道291号は新潟方面に通じておらずどん詰まりだし…
そして泣きたくなる程寂しい土合駅の時刻表。新潟に行きたければ上越新幹線に乗れという事ですか。高崎方面8時39分の電車に乗り過ごせば次は12時26分という超エクストリーム級に暇過ぎるダイヤ。利用客の殆どが登山客のようだが、モグラ駅の地下ホームを敬遠して水上駅を利用する事も多いのだとか。よって一日の乗降客数は20人そこそこ。
古びたコンクリート建造物である駅舎とは裏腹に上越線のホームへ向かう案内看板は東京都内でよく見るタイプのJR東日本仕様の真新しいものが取り付いている。地上駅舎のトイレも随分綺麗になっていて「駅寝」する客には好評の模様です。
まずは何の変哲も無い秘境駅でしかない土合駅上りホームの様子を見る。上り電車は全て水上行きで、そこから高崎行き電車へ接続している。電車だけで東京からここまでの所要時間は新幹線使用で高崎もしくは越後湯沢から最短2時間、在来線のみだと約3時間半。
さて、土合駅最大の見所である下りホームへは…この薄気味の悪い隔離病棟か何かのような殺風景な通路を抜けていく事になる。観光客が多い連休時に来たから別に何とも思わないけど、ここを一人で歩く事を想像するとちょっと怖い感じがする。
土合駅の駅舎から国道291号や湯桧曽川を跨ぐ連絡通路を経て、その先にある地下通路への入口までさらに歩く。有人駅だった国鉄時代は、この連絡通路の移動時間を考慮して、電車の発車時刻10分前には改札を閉めきっていたという。
連絡通路の窓から見える湯桧曽川の水がことごとく透き通っているのが見える。これぞ秘境駅。さすが秘境駅。雄大な水の流れの源には、世界一遭難死者を出している魔の山の異名もある谷川岳がそびえる。
もうこの辺りから既にひんやりとした冷気が地下通路を伝って吹き付けてくる。水上あたりは標高も高いので真夏には避暑に最適な訳だが、土合駅は特にうってつけ。そのぶん冬場はどうなるのか過酷っぷりが気になるんですけどね。水上は群馬県屈指の豪雪地帯で、土合駅のあたりは多い時には3メートルくらい雪が積もるそうだ。
そして現れた下りホームへの地下通路。入口に立つだけで気が遠くなりそうだが、ホームに降りるよりも電車で着いて登ってくる側のが大変に決まっている。そしてこの天然クーラー状態。涼しい。むしろ寒い。